研究概要 |
1. 痙縮患者のlb抑制:正常者と痙縮患者でlb抑制を検討した.安静時と拮抗筋の随意収縮時で行い,収縮による抑制量の変化をみた.患者の安静時の抑制量は正常であった.収縮によって正常者では全例で抑制量が有意に増大したが,患者では抑制量の増大は有意に少なかった.痙性歩行のない患者では収縮によって抑制量が正常に増大したが,痙性歩行を示した患者では抑制量の増加はなかった.患者では収縮による抑制の増加量は歩行時間と負の相関を示した.痙縮で臨床徴候と神経回路活動が相関した初めての知見であり,lb抑制の調節障害は痙縮の運動障害に大きく関与している. 2. 加齢に伴うla促通とlb抑制の変化:正常加齢に伴うlb抑制とla促通の変化を検討した.ヒラメ筋H反射を用いてlb抑制,la促通を検討した.安静時,la促通は加齢に伴ってほぼ直線的に減少したが,lb抑制は加齢による変化はなかった.拮抗筋収縮によるlb抑制量の増大も加齢変化はなかった.la促通は単シナプス性の部分を解析したため,促通量の減少はla線維終末におけるシナプス前抑制が増加したためと考えられる.両者の違いは加齢に伴う制御機構の変化が一様ではないことを意味し,高齢者の運動障害に関与する可能性がある. 3. パーキンソン病患者の大脳皮質活動の変化:正常者・パーキンソン病患者を対象に,随意運動に伴う大脳皮質の活動性の変化を調べた.運動皮質に磁気刺激を与え,ヒラメ筋H反射に対する効果を安静時と主働筋の随意収縮時とで検索した.正常者では安静時に短潜時の抑制があり,収縮時にはさらに単潜時で促通が出現した.患者では安静時の抑制がなく,また収縮時にも促通はなかった.治療で淡蒼球破壊術を行った患者では,臨床症候の改善と共に,安静時の抑制,随意運動時の促通共に出現した.これら皮質活動性の変化は,視床一皮質投射に対する過剰抑制の結果と考えられる.
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