研究概要 |
セルロプラスミン欠損症は、無セルロプラスミン血症と脳、肝臓をはじめとする全身の諸臓器への鉄の沈着を来す鉄代謝異常症として、我々が1987年に世界で初めて一家系を報告した。遺伝形式は常染色体劣性遺伝と考えられ、本家系の病因はセルロプラスミンの遺伝子異常、エキソン7におけるTACACの5bpの挿入、であることがわかった。これまでに本疾患として報告されているのは、我々の症例を含め国内5家系、海外1家系がある。 1.今回は、長崎大学で発見された一家系について遺伝子異常を検討した。この家系では我々の症例と異なり糖尿病の出現は神経症状よりも5-10年早く、神経症状は緩徐進行性の小脳性の運動失調のみ来している。また網膜変性(網膜色素変性症)は我々の症例は同様に認められている。遺伝子解析の結果、この患者ではエキソン15の2630のGがAに点変異しており、このためこの位置でストップコドンとなることがわかった(nonsense mutation)。 2.セルロプラスミンはそのフェロオキシダーゼ活性により血漿の強力な抗脂質過酸化作用を有しており、鉄やフェリチンは脂質過酸化を促進することが分かっている。従って、本疾患では脂質過酸化の亢進が予想され、これが症状発現に関連していることが考えられた。そこで今回我々の家系の患者(homozygote)3名,(heterozygote)8名および患者と同年代の正常コントロール12名の血漿で、チオバルビツール酸反応陽性物質を指標として脂質過酸化を検討した。その結果、本症例では脂質過酸化の亢進があることがわかった。 3.我々の症例について糖尿病の発現を検討したところ、homozygoteでは50歳以降にインスリン依存性の耐糖能障害あるいは糖尿病が出現することがわかった。臨床症状の発現時期の違いについては、他の家系の遺伝子異常と比較する必要があり、遺伝子異常の違い(genotype)が臨床症状(phenotype)にどのように反映されるかが今後の課題である。
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