研究概要 |
本研究では、実験的糖尿病(DM)ラットで認められた末梢神経損傷後の神経再生障害の機序を解明するため、神経再生の準備段階として重要なワーラー(W)変性に注目し以下の検討を行った。 1 DMラットでW変性は遅延するか?:9週ストレプトゾシンDMラットの坐骨神経切断後、経時的に遠位部の残存神経線維数を計測した。DMでは有意に残存神経線維が多く、形態学的にW変性が遅延していた。 2 W変性の遅延はNFの分解遅延に由来するか?:坐骨神経切断後、経時的に遠位部神経を採取し、NFをリン酸化状態により特異的に認識する抗体、すなわちNFのリン酸化状態に無関係にNF-Mを認識する抗体(NN18)、リン酸化NF-HとNF-Mを認識する抗体(SMI31)および非リン酸化NF-Hを認識する抗体(SMI32)を用いてImmunoblotを行いその蛋白量を観察した。DMでNN18とSMI31で認識されるNFの分解は遅延していたが、SMI32で認識されるNFの分解は対照と差はなかった。以上よりDMではW変性におけるNFの分解が遅延し、それは増加したリン酸化NFの分解の遅延に由来した。 3 DMでNFのリン酸化は亢進しているか?:DMにおける坐骨神経非切断時のNFのリン酸化状態をSMI31,SMI32を用いてImmunoblot法で検討した。DMで対照に比べNFのリン酸化は亢進していた。 以上よりDMではW変性が遅延し、それはリン酸化NFの増加に由来していた。NFのリン酸化状態はNFの分解を調節していることから、DMにおけるW変性遅延の一因にNFのリン酸化の亢進が関与する可能性が示唆された。 今後、DMで見られたNFのリン酸化の亢進がいかなる機序によるかを、NFキナーゼの一つであるCdk5に注目し、末梢神経系における同酵素の局在、発現、活性の分布を明らかにし、DM状態でその変化を検討する予定である。
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