多発性硬化症(MS)の慢性脱髄病巣では髄鞘の再形成が障害されているが、それには脱髄斑におけるastrogliosisが関与している可能性がある。実験的にマウスを用いてastrocyteを継代せずに12週以上長期培養すると形態学的にastrogliosisに相当する変化をきたし、astrogliosisのin vitroでのモデルになり得ることを発見した。さらに長期培養astrocyte上にマウス新生仔小脳を培養すると髄鞘形成が著しく阻害されることがわかった。すなわち4週以前の培養astrocyte上では100%の髄鞘形成率を見るが、培養5週以降より徐々に髄鞘形成率が低下し、12週以降ではもはや髄鞘は形成されなくなった。そこで髄鞘形成を阻害する因子がastrocyte培養液中に分泌されていないかどうかを短期培養astrocyteと12週以上の長期培養astrocyteのconditioned medium(CM)を用いて調べた。CM 100%、95%、90%、80%、70%、50%の濃度で調べると80%以上の濃度で両者に差異がみられた。これより長期培養astrocyte、すなわちastrogliosisは髄鞘形成を阻害する因子を産生している可能性が示唆された。次に遺伝子レベルで短期培養と長期培養のastrocyteにmRNAに差異のあるものがないかどうかをdifferential displayの手法を用いて調べた。長期培養astrocyteにのみ発現しているある転写調節因子が発見されたが、現在その確認と解析を行っているところである。
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