多発性硬化症の慢性脱髄性病巣では髄鞘の再形成が障害されているが、それには脱髄斑にアストログリオーシスが関与している可能性が考えられる。実験的にマウスを用いてアストロサイトを継代せずに12週以上培養を続けると、形態学的にアストログリオーシスに相当する変化を来たし、それが髄鞘形成を抑制することを見出した。今年度はこの培養系を用い、グリオーシス関連遺伝子を検索した。短期培養、および長期培養アストロサイトそれぞれよりRNAを取得し、Differential Display法を用いて、長期培養アストロサイトに特異的に発現する遺伝子を検索したところ、数種の遺伝子が得られた。そのうちの一つはDrosophiliaの転写調節因子BBF-2とhomologyが高く、OASISと名付けた。これはRNase protection assayで、実際に長期培養アストロサイトに強く発現が誘導されていることが確認された。全長cDNAの解析からOASISはCREB/AFT familyに属する遺伝子で、蛋白としてはleucine zipper構造をもち、その上流には塩基性アミノ酸がクラスターを形成するbasic regionのあることがわかった。このことはOASISが転写調節因子として機能していることを示唆する。成熟脳ではOASISの発現は強くないが、凍結損傷モデルを作成して損傷後のOASISの発現を解析したところ、損傷周囲のGFAP(glial fibrillary acidic protein)に対する免疫反応が増強している部位にほぼ一致して、OASISの発現が増強していた。このようにOASISは反応性アストロサイトおよびグリオーシスにおいて特異的に誘導されていることから、これがグリオーシス形成過程に重要な役割を担っていることが考えられた。
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