多発性硬化症の慢性脱髄性病巣では髄鞘の再形成が障害されているが、それには脱髄斑におけるアストログリオーシスが関与している可能性が考えられる。実験的にマウスを用いてアストロサイトを継代せずに12週以上培養を続けると、形態学的にアストログリオーシスに相当する変化を来たし、それが髄鞘形成を抑制することを見出した。すなわち培養アストロサイト上に新生仔マウスの小脳片をのせ培養し、小脳組織における髄鞘形成を調べてみると、4週目までの短期培養アストロサイト上では髄鞘が100%形成されるが、12週以降ではもはや髄鞘は形成されなくなった。そこで髄鞘形成を阻害する因子が長期培養アストロサイトより産生されていないかどうかをconditioned mediumを含む培養液で小脳を培養し、髄鞘形成率を調べたところ、長期培養アストロサイトのconditioned mediumで髄鞘形成が抑制された。これよりグリオーシス化したアストロサイトは髄鞘形成を阻害する因子を産生していることがわかった。次にこの培養系を利用して、グリオーシス関連遺伝子をdifferential display法を用いて検索したところ、OASISと名付けた遺伝子が得られた。これは実際に長期培養アストロサイトに発現が強く誘導されていることが確認された。全長cDNAの解析からOASISはCREB/AFT familyに属す遺伝子で、蛋白としてはleucine zipper構造とをもち、その上流にbasic regionのあることがわかった。このことはOASISが転写調節因子として機能していることを示唆する。凍結損傷モデルを作成して損傷後のOASISの発現を解析したところ、損傷周囲のGFAPに対する免疫反応が増強している部位に一致して、OASISの発現が増強していた。このようにOASISは反応性アストロサイトおよびグリオーシスにおいて特異的に発現が誘導されていることから、これがグリオーシス形成過程に重要な役割を担っていることが考えられた。
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