研究概要 |
Cyclic AMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)は、cyclicAMPが特異的に結合することで活性化され、種々の細胞内リン酸化反応を惹起し、c-Fos、Brain-derived neurotrophic factor(BDNF)の発現を促進するなど細胞の各種修復機転などに関与している。一方、虚血急性期、脳内cyclicAMP濃度の有意な上昇が明らかにされているが、同時期に我々はPKAのcyclic AMP結合能が明らかに低下し、PKAを介する細胞内情報伝達系が障害されていることを観察した。今回、再潅流により上記障害の出現が抑制されるか否か、検討した。 Sprague-Dawleyラットを使用、虚血群(n=7)、再潅流群(n=9)、sham 群(n=7)に分けた。虚血群では血管内ナイロン糸法で右中大脳動脈起始部を5時間閉塞、再潅流群では同方法で右中大脳動脈起始部を1.5時間閉塞後、ナイロン糸を引き抜き3.5時間再潅流した。両群とも、閉塞1時間後に神経学的症候を観察し、少なくとも左側前肢の屈曲以上の明らかな脳虚血症状(Bedersonら,1986)を示した動物を実験に使用した。実験終了時に^<14>C-iodoantipyrine法で局所脳血流量(ICBF)を測定した。Sham群は、右内頚動脈分岐部を露出するのみとし、5時間後に上記と同様にICBFを測定した。その後、クリオスタットで連続脳切片を作成、切片の一部はそのままフィルムに感光し、ICBFオートラジオグラムを得、残りの切片からは、我々が開発した方法(Tanaka et al,1996)で^3H-cyclicAMP結合能を示すオートラジオグラムを得た。 5時間の虚血後の再潅流によって、本モデルの虚血中心部である線条体では、血流回復にも関わらず、むしろPKAを介する細胞内情報伝達系の障害は進行していた。一方、虚血周辺部にあたる大脳皮質におけるPKAを介する細胞内情報伝達系の障害は、再潅流によって軽快することが示された。臨床的に血流再開療法を進めるにあたって、虚血中心部での再潅流傷害の対策が、PKAを介する細胞内情報伝達系の立場からも重要であることが示唆された。
|