研究概要 |
近年、成人脳でも、障害後機能分担の再構築が起こることがPETや磁気刺激による研究で示されている。(Frackowiakら1991,Weillerら1992,Cohenら1991)。この脳の可塑性を片麻痺患者の運動準備電位と麻痺の回復を指標に検討した。 脳血管障害による片麻痺患者の亜急性期に、患者の承諾を得て随意運動に先行する運動準備電位を記録した。正常側と麻痺側示指の屈曲運動を別々に行い、その際の運動準備電位を測定した。また、発症時、検査時、発症6ヶ月後の麻痺の程度を筋力検査で評価した。 その結果、1.正常側運動の運動準備電位は17名中11名で指と反対側の脳で大きかった。2.麻痺側運動の運動準備電位は17名中5名で指と同側の脳で大きかった。3.正中部における運動準備電位は17名中5名で麻痺側指運動の方が正常側指運動よりも大きかった。4.麻痺側指運動の準備電位が、同側の大脳皮質で反対側より大きかった例と健側指運動の時よりも大きかった例の麻痺の回復は、通常例と差はなかった。 以上より、麻痺例の随意運動では麻痺と同側の脳の運動準備電位が反対側よりも大きいことがしばしばあり、脳障害により麻痺指運動と同側の脳の知覚運動野が活性化されていることが示唆されたが、このことは必ずしも麻痺の回復に有意な影響をあたえているようにはみえなかった。しかし麻痺した指の運動に際して麻痺と同側脳の運動準備電位の活性化は、脳の可塑性の神経生理学的証拠であると考えられた。
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