近年、成人脳でも、障害後機能分担の再構築が起こることがPETや磁気刺激による研究で示されている。このような脳の可塑性を運動準備電位と運動麻痺の回復の程度を指標に検討した。 脳血管障害による片麻痺患者の亜急性期(発症から4-60日)に、指の随意的屈曲運動に先行する運動準備電位を記録した。また、運動準備電位検査時と発症6カ月後の筋力を6段階(0:完全麻痺、5:正常)に評価し、運動準備電位と麻痺の関係を検討した。 その結果、1.正常側指運動では、運動準備電位の後期成分は、17名中12名で指と反対側の脳で大きく、指と同側の脳で大きいものはなかった。2.麻痺側指運動では、運動準備電位の後期成分は、17名中6名は指と反対側の脳で大きかったが、指と同側の脳で大きいものが5名あり、5名中4名は左片麻痺であった。3.脳の正中部の運動準備電位の早期成分は17名中5名で、後期成分は2名で麻痺側指運動の方が正常側指運動よりも大きく、4.麻痺の回復は、麻痺側指運動の運動準備電位が、同側の大脳皮質で反対側より大きかった例と正常側指運動の時よりも正中部で大きかった例で、その他の例と差はなかった。 以上より、片麻痺の亜急性期に麻痺側指の随意運動で麻痺と同側の脳の運動準備電位が大きくなることが観察され、これは、脳障害により正常な脳の知覚運動野が活性化されるという脳の可塑性を神経生理学的に示したものと考えられた。しかし運動準備電位からみた脳の可塑性の有無は運動麻痺の回復に有意な影響を与えていなかった。今後運動麻痺の回復について詳しい評価が必要であろう。
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