研究概要 |
平成9年度は、抗利尿ホルモン(ADH)に注目して研究を進めた。理由は以下による。(1)最近の一連の研究ではADHが記憶と深い関係があり、老年性痴呆などで著明に低下していることが報告されていること。(2)しかしながら、ADHが末梢神経に対してはどの様に働くか全く解っていないこと。(3)特に加齢によるADHに対する末梢神経内血管反応の報告がないこと。 [研究の実施] 生後8週のラット24匹を用いて、水素クリアランス法を用いて、左坐骨神経血流に対するADHの反応性を検討し容量反応曲線を求めた。水素クリアランス法の詳細ついては平成8年度科学研究費補助金実績報告書に記載したので、方法に関しては今回の重要項目に絞って報告する。まず、左坐骨神経血流量を水素クリアランス法で測定した。次に、ADHをリンガー液に溶解した溶液を作成、末梢神経周囲を局所環流させ、血流量の変化を測定した。ADHは10^<-20>、10^<-12>、10^<-9>、10^<-6>、10^<-3>、10^<-2>Mの濃度溶液をそれぞれ用いた。ADHは容量依存的に坐骨神経血流量を低下させ末梢神経血流減少率は10^<-20>Mで-8.0%,10^<-12>Mで-18.1%,10^<-9>Mで-28.0%,10^<-6>Mで-38.9%、10^<-3>Mで-64.9%、10^<-2>Mで56.9%を示していた。そしてED50は3.79×10^<-6>Mであった。そこで、生後48週の加齢ラットと生後8週のラットの坐骨神経周囲に10^<-5>MのADHを局所循環させ神経血流量の変化を比較した。生後8週ラットは40.2%の末梢神経血流量がADHの局所循環の結果減少したのに対して、48週ラットは17.1%しか減少せず有意差が存在した(P<0.05;対応のないt検定)。 [結論] 今年度研究結果から以下の事が判明した。(1)ADHは直接的に末梢神経血管を収縮させ、その強さはカテ-コールアミンとほぼ同様の薬理効果である。(2)加齢により末梢神経内血管のADHに対する反応性は低下する。(3)以上の結果から、従来より加齢により血清ADHが上昇することは知られており、老人は脱水傾向にあるためとされてきたが、さらに末梢神経内血管の反応性の低下によるフィードバック機序も考慮する必要があり、老人痴呆の病態として、中枢神経ばかりでなく末梢神経におけるADHの反応性の低下もさらに考慮すべきであることが明らかにされた。
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