研究概要 |
昨年度までは,ヒトが視覚刺激に応じてある決められた運動を起こすまでにどの程度時間が費やされるかを検討し,視覚刺激の処理に約150ms,その後運動を起こすまでに約64msかかることが判明した.そこで今年度は種々の視覚刺激がどの脳部位でどのように処理されるかを検討した.第一の実験では,仮現運動を誘発する視覚刺激を二つのLEDを用いて作成した.LEDは被検者の左視野に視覚1度の距離に離れて置かれ,それぞれは交互に2秒ずつ点灯した.これにより被検者はLEDが消える方から点灯する方に向かう仮現運動を知覚した.この時,始めのLEDが消えてから次のLEDが点灯するまでの時間(ISI)を変化させると,被検者が観測する運動の質(滑らかさ)が変化した.ISI=0のとき,もっともスムーズな運動を知覚して,ISIがこれからずれるにつれて運動の質は減衰した.同じ刺激を用いて脳磁図にて誘発される脳活動を記録すると,ISIが変化してもいつも反応はヒト運動視中枢と思われる部位から記録された.そしてその反応の強さは被検者の知覚した運動の質と比例して変化した.この結果は,ヒト運動視中枢に仮現運動の自覚的観測結果を表現する神経活動が存在することを示唆している.これは,現在Journal of neuroscienceに投稿中である.第二の実験では,ランダムドットの運動によって定義された形がどの脳部位で処理されるか検討した.脳磁図の反応は前回のものと異なり,後頭側頭葉の底部にその信号源が認められ,それは被検者の形の認知程度と関連していた.この結果はNeuroreportに発表した.
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