研究概要 |
アミロイドβ(Aβ)蛋白はアミノ酸40-43残基からなる.Aβ蛋白がミクログリア等の貧食細胞に取り込まれたあとの変化を観察するために,本年度はまず,Aβ蛋白の様々な部位に対する抗体について,その認識エピトープのAβ蛋白における部位(あるいはその範囲)を決定した.当研究所で作製した抗体に加え,市販品の購入,および共同研究の形で供与を受ける等の方法で,合計10種類のポリクローナル抗体と4種類のモノクローナル抗体を揃えた.また,Aβ蛋白のN末端アスパラギン酸からC末端アラニンまでをカバーする,多数の5〜17アミノ酸からなるペプチドを作製あるいは購入し,ニトロセルロース膜上にスポットした.膜は組織標本と条件を合わせるために,パラフォルムアルデヒド・ガスにて固定し,上記各種抗体にて免疫組織化学染色を行った.1例をあげると,この方法により,Aβ17-31のペプチドを用いて作製したE50ポリクローナル抗体が,主としてAβ22-25,ついでAβ29-31の部分を認識していることが明らかになった.これはAβ17-24に対して作製されたモノクローナル抗体,4G8の認識部位Aβ18-20とは全く重なっていない.このようにしてその特異性を確認した各種抗Aβ蛋白抗体にてアルツハイマー病患者剖検脳標本の免疫染色を行うと,従来「Aβ沈着」として一様に扱われていたものが,実際には個々の沈着ごとに,そこに局在するAβ蛋白の分子種が様々であることが明らかになった.Aβ蛋白のN末端側の多様性は前述の4G8の認識部位までで,4G8とE50が認識する各エピトープは組織切片上ではほぼ一致した局在を示した.このような沈着Aβ蛋白の分子種の多様性がどのような背景から生じているのか,本年度に行い得た単純な解剖学的分析や,あるいは条件の異なる症例間の比較等からは明らかにできなかった.
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