研究概要 |
前年度にAβサブシーケンスに対する特異性を詳細に調べた各種抗アミロイドβ蛋白(Aβ)抗体を用い,アルツハイマー病(AD)患者剖検脳標本におけるAβ沈着および細胞内Aβ顆粒の免疫化学的性質を検討した.通常の老人斑周囲にもAβ陽性顆粒を含むミクログリアとアストロサイトが観察される場合があるが,さらに,一部の症例の,しかも脳のごく一部分に,Aβ顆粒陽性グリア細胞を多数伴う特異なびまん性Aβ沈着が出現することを発見・報告した.このびまん性Aβ沈着は,通常のびまん性Aβ沈着に比べてAβ40が多い点,光学顕微鏡的に線維性の沈着が観察されず全くアモルファスである点等の特徴を有していた.グリア細胞内Aβ顆粒はαセレクターゼ切断部位付近からN末端側のシーケンスを欠いていた.またC末端は周囲のAβ沈着に一致しており,Aβ42に加えAβ40にも陽性であった.これらの点はAD患者大脳皮質に虚血病巣を合併した場合などに見られる,浸潤マクロファージに貪食されたAβと同様であり,グリア細胞内Aβ陽性顆粒が,一度細胞外に分泌され沈着したAβをグリア細胞が取り込んだものであることが示唆された.このびまん性Aβ沈着周囲部位のAβ顆粒陽性グリア細胞について,その表現型を検索したところ,これらのグリア細胞はあまり活性化されていないことが明らかになった.AD脳,正常脳とも,Aβ産生細胞から細胞外に放出されたAβは,かなりの部分がグリア細胞に取り込まれて処理されていると考えられる.上記Aβ顆粒を含むグリア細胞を伴ったびまん性Aβ沈着は,(1)先行する線維性Aβ沈着が存在しない状態で過剰なAβ産生・分泌が起こってアモルファスな沈着が生じ,(2)そのような部位ではグリア細胞によるAβ取り込みが亢進して,分解処理能力を超えた結果,グリア細胞内にAβ陽性顆粒が形成された,と推定された.グリア細胞による除去を逃れたAβがアミロイド線維を形成すると,それは病的な異物として認識され,補体や貪食細胞の活性化を中心とした慢性炎症性変化と神経細胞障害が生じると思われる.
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