本研究では、我々の開発による超音波ドプラ生体微小振動計測法に基づいた動脈硬化病変測定法を開発し、これを集団検診でも使用しうるように処理系統を形成した。現在では、患者など対象者の動脈硬化の高精度計測を、ほぼ実時間(10分未満)で完了しうるように築いてある。さらに各動脈硬化危険因子と血管壁変化の関係を検討するため、多人数(約1万5千人)の集団検診データの取り込み解析システムを完成したが、本研究においてはそのうちの動脈硬化危険因子の高度なもの90名について計測を行い、 1。頚動脈局所の壁の厚さ、壁の固有弾性率を計測し、本法が他の方法では到達不可能である数十ミクロン毎の壁内各層別の変化までも計測しうる高精度の非観血的計測法であること。 2。動脈硬化の最も早期の変化はこれまで述べられて来たような壁厚の増大ではなく、壁の固有弾性率の増大が先行すること。 3。進行病変については主病変たるアテロームの線維性皮膜や粥種内部の弾性的性質やその厚さなどをも明らかにしうること。 4。粥種内部の物性変化は数週という短い時間で大きく変化していること。 などの多くの重要な知見を得ることができた。 本研究によって、これまで強く望まれてきた動脈硬化、殊に血管局所の病変たるアテロームの安定/不安定性やその進展の退縮などを、非観血的にしかも血管壁粥種の内部組成にまで踏み込んで把握する方法の端緒が開かれたものといえよう。また、健康診断にこれを応用して、上述の如く充分な成果を挙げ得たことから、今後も、多数例を対象とした集団検診での臨床的検討を継続し、動脈硬化の危険因子を是正することによる動脈硬化の改書の有無やその程度、さらには治療を開始すべき時期などを明らかにすることが必要である。
|