昨年度の計画で報告した、麻酔開胸犬を用いた心交感神経刺激時の左室収縮力に関するNO合成酵素阻害剤及びL-arginineの効果についてのデータを″Nitric Oxide Modulates Sympathetic Control on Left Ventricular Contraction in Vivo″と題した論文にまとめ、1998年、Journal of the Autonomic Nervous System、第71巻、p.69-74に発表した。 心室レベルでの心臓交感神経による心機能調節に対するNO合成系の関与は上記のごとく一定の成果をあげることが出来た。生理学的に心臓交感神経は心房・心室レベルでの分布の差に相応して、心筋の収縮能や心臓調律に対する作用が異なる事は、著者の教室からの報告を含め多くの報告がある。次のステップとして慢性心不全モデル犬を用い、心房レベル、心室レベルでの自律神経調節に対するNO合成系の関与のレベルの差について比較検討することを計画した。慢性心不全犬のモデルの選択について検討する前段階として心房収縮力に対するNO合成系の関与を犬を用いた急性実験で検討した。心房収縮力の指標は左心耳に生理的食塩水を満たしたラテックスのバルーンを挿入し、その内圧の変化をカテ先マノメーターで記録し、その一次微分値を心房のdp/dtとして用いた。心房dp/dtの変化は交感神経最大刺激時でも極めて小さく、NO合成酵素阻害剤の効果も極めて微小であり、個体によってはNO合成酵素阻害剤のこうかを全く関知できなかったため、発表可能なデータの集積を得られなかった。
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