血管内皮や心筋細胞で産生されるエンドセリン(ET)-1は、血管収縮作用を有すると伴に、心筋に対して細胞傷害作用や肥大作用を有する。本研究にて、慢性心不全(CHF)における内因性ET-1の病態生理的役割についてと、ET受容体拮抗薬の治療薬としての可能性についての研究を行った。心不全モデル動物としては、左冠動脈を結紮して心筋梗塞を作成したラット(CHF群)を用いた。偽手術群には開胸手術のみを行った。手術3週後、ラットは心不全になっていた。この時期、左室(LV)でのET-1mRNA発現は、偽手術よりCHF群にて著明に亢進しており、LVの組織ET-1レベル(ペプチドレベル)もCHF群で著明に増加していた。CHF群にET_A受容体拮抗薬であるBQ123([CHF+BQ123]群)または生食(Vehicle)([CHF+生食]群)を、偽手術群にも生食を、浸透圧ミニポンプにて12週間投与した。生存率は、[CHF+BQ123]群の方が[CHF+生食]群より著明に高かった。生存したラットでの検討にて、BQ123の投与はCHF群のLV+dP/dt maxの低下やLVEDPの上昇を改善することが示され、また、病理組織学的検討にて、BQ123の投与はCHF群の心臓リモデリングの進展を抑制することが示された。また、ET拮抗薬の投与は、CHFによる心筋の遺伝子発現(ANP・心筋小胞体CA^<2+>ATPase遺伝子など)の変化を改善し、ゆえに心筋細胞に質的な改善をもたらすことが判明した。抗ET-1抗体を用いたET-1の染色性(ET-1様免疫活性)は、CHF群の心筋細胞にて著明に増大していた。またこの病時期の不全心筋にて、アンジオテンシン変換酵素mRNAの発現は亢進していた。一方、ET変換酵素mRNAの発現は亢進が認められず、ゆえにET-1産生増大はET-1前駆体産生増大に起因し、ET変換酵素には依存しないことが示唆された。よって、不全心筋におけるアンジオテンシン変換酵素とET変換酵素の役割は異なっていた。また、心不全によるうっ血肺の血管内皮でET-1の産生が亢進し、心不全による肺高血圧の進展にET-1が関与し、ET_A受容体拮抗薬がこの肺高血圧を改善するデータも得られた。以上より、内因性ET-1は心不全の進展に関与しており、ET拮抗薬が新しい治療薬になり得る可能性が示唆された。
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