近年心不全患者の換気亢進の機序の一つとして、血中カリウム濃度の増加が示唆されている。本研究ではこの仮説を立証すべく、心不全患者にカリウム剤の長期投与を行い、静脈血中カリウム濃度と換気量の関係を、主に運動時の変化から検討した。心不全患者13例を対象に、カリウム剤の経口投与前と投与1ヶ月後に、坐位自転車エルゴメーターを用いた6分間の一定量運動負荷試験を行った。うちカリウム剤の長期投与で安静時の静脈血中カリウム濃度が10%以上増加した8症例において、データの解析を行った。安静時の血中カリウム濃度は3.58±0.33から4.23±0.29mEq/lまで有意(P<0.001)に増加し、また運動終了時のカリウム濃度も3.83±0.43から4.70±0.36mEq/lまで有意(P<0.001)に増加した。しかしながら安静時の換気量はカリウム剤投与前が12.0±2.6、投与後が12.3±1.8L/minと有意な変化はなく、運動終了時の換気量もカリウム剤投与前が44.5±9.5、投与後が43.5±8.1L/minと変化を認めなかった。安静時及び負荷終了時の乳酸値も換気量と同様にカリウム剤投与前後で変化なかった。なお本研究において、長期間のカリウム剤経口投与が人体および心不全に悪影響をもたらした症例は一例もなかった。以上のごとく、安静時および運動負荷中の血中カリウム濃度がカリウム剤投与後に有意に増加したにも関わらず換気量が不変であったことから、心不全において血中カリウムは換気の主要な調節因子ではないことが強く示唆された。
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