我々は本研究で粥状動脈硬化の初期病巣を形成する細胞がトロンビン受容体の発現をどのように調節しているのかを解明し、この受容体が粥状動脈硬化におよぼす影響を検討する目的で培養細胞におけるトロンビン受容体の発現を検討した。THP1細胞を100nMのフォルボールエステル(PMA)で刺激した後のトロンビン受容体のmRNAの発現誘導を調べたところ、刺激後24時間までの範囲内においてはいずれの処理時間においてもトロンビン受容体の発現増加は認められなかった。血管平滑筋細胞における受容体の発現誘導はこれまで報告された限りでは有効なものはなく、今後の課題である。次にトロンビン受容体の遺伝子構造ならびにプロモーター領域の検討を行う目的でヒト及びマウスの受容体遺伝子のクローニングを行った。その結果、以下のことが明らかになった。受容体遺伝子は二つのエクソンから成り、約15kbと比較的短いイントロンにより隔てられている。エクソン-イントロンのスプライシングはこれまでに知られているコンセンサスに一致し、またヒト、マウスともに共通の部位でスプライシングが起こっていた。プロモーター領域の解析により明らかになったことはまず、ヒト、マウス間で相同性が低いこと、また、TATA boxがみとめられず、GCの含有量が多いこと、などであった。これらの理由から、転写開始部位を決定するための種々の試みがうまくいかなかったことが説明できる。また、この遺伝子がCpG islandを形成していることが予想され、トロンビン受容体遺伝子がhouse keeping geneとしての役割を果たしていることが示唆された。
|