研究概要 |
初期の粥状動脈硬化病変への単球・Tリンパ球の集簇機構の一つとして接着分子VCAM-1,ICAM-1の関与が示唆されている。また,さらに進行した病変では中膜平滑筋細胞の内膜への遊走、増殖がみられるが、この過程においては血管内皮細胞をはじめとする内膜に存在する細胞が産生する増殖因子の関与が考えられる。このような接着分子、増殖因子の発現を粥状動脈硬化の病変部位で誘導する刺激の一つとして、酸化LDL,beta-VLDLなどのリポ蛋白で著明な増加がみられるリン脂質リゾフォスファチヂルコリン(lyso-PC)のもつ生理活性が注目され、培養血管内皮細胞においてVCAM-1,ICAM-1などの接着分子に加えてPDGF A鎖・B鎖およびHB-EGFなどの血管平滑筋細胞に対する増殖因子の遺伝子発現を選択的に誘導することが示されている。これらのlyso-PCによる遺伝子発現誘導は蛋白チロシンリン酸化阻害剤にて阻止されることから、本研究ではlyso-PC刺激によりチロシンリン酸化される蛋白の同定を試みた。抗リン酸化チロシンに対する単クローン抗体を用いたイムノブロットにて培養ウシ大動脈内皮細胞にて分子量約130kDaの蛋白(p130)がlyso-PC刺激15分後よりチロシンリン酸化されることが見いだされた。このp130を同定するため、分子量約130kDaの既知の蛋白に対する抗体を用いて免疫沈降の後、抗リン酸化チロシン抗体にてイムノブロットしたところ、p130は血管内皮細胞の細胞間の接着を支える接着分子PECAM-1であることが明らかとなった。lyso-PC刺激によるPECAM-1のチロシンリン酸化と接着分子、増殖因子の遺伝子発現との関係について現在さらに研究を進めている。
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