初期の粥状動脈硬化病変への単球・Tリンパ球の集簇機構の一つとして接着分子VCAM-1、ICAM-1の関与が示唆されている。また、さらに進行した病変では中膜平滑筋細胞の内膜への遊走、増殖がみられるが、この過程においては血管内皮細胞をはじめとする内膜に存在する細胞が産生する増殖因子の関与が考えられる。このような接着分子、増殖因子の発現を粥状動脈硬化の病変部位で誘導する刺激の一つとして、酸化LDL、beta-VLDLなどのリボ蛋白で著名な増加がみられるリン脂質リゾフォスファチヂルコリン(lyso-PC)のもつ生理活性が注目され、培養血管内皮細胞においてVCAM-1、ICAM-1などの接着分子に加えてPDGF A鎖・B鎖およびHB-EGFなどの血管平滑筋細胞に対する増殖因子の遺伝子発現を選択的に誘導することが示されている。本研究では、lyso-PCによる遺伝子発現誘導に関与する細胞内情報伝達および転写調節機構の解明を行ってきた。昨年度までの研究によりlyso-PCにより速やかに接着分子PECAM-1がチロシンリン酸化されることが見いだしたが、今年度は、lyso-PCによりERK、JNKなどのMAPキナーゼ経路が活性化されることが明らかとなった。さらに、これらは、蛋白チロシンリン酸化に依存することから、PECAM-1のチロシンリン酸化との関連につきさらに研究が進められている。また、これと平行してlyso-PCによる転写制御機構とMAPキナーゼ経路との関わり、さらに、MAPキナーゼの上流の細胞内情報伝達機構についても現在研究を進めている。
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