平成8年度には自律神経系の温存された犬交叉潅流心において房室結節の生理的機能を不規則な白色ノイズ刺激を与える事により検討し、機能的不応期が連続的先行RR間隔の変化に連動して変わる事を報告した。平成9年度は動物実験ではの房室結節の生理的機能をふまえてヒト心房細動における変行伝導と心室性期外収縮の鑑別が可能である事、また、その定量的鑑別法について検討した。対象は発性性心房細動34例、慢性心房細動62例で12例を除いて84例で弁膜症などの基礎心疾患を合併していた。発作性心房細動では洞調律と心房細動の発作中のホルター心電図を記録し、上室性期外収縮の変行伝導と同一波形は心房細動中でも変行伝導と判断した。32例においてHis束心電図を記録し、H波の有無により心室性期外収縮か変行伝導かのgolden standardとした。ホルター心電図のRR間隔時系列データのRRnをX座標、RRn+1をY座標として二次元図形表示し、心室性期外収縮と変行伝導の二次元図形パターンの違いを検討した。変行伝導は右脚もしくは左脚の機能的不応期が房室結節のそれより長い時に房室結節と右脚、左脚の機能的不応期の差により出現するので心房細動の二次元分布図の下限に一致した出現をみた。一方、心室性期外収縮は心房細動の分布とは無関係な領域に分布し、変行伝導とは異なる分布を示した。連結時間の短い心室性期外収縮は心房細動の二次元図形分布の下限からさらにX軸に近い領域に心房細動の分布と分離してみられ、明瞭に区別できた。この二次元分布図の違いはHis束心電図により心室性期外収縮か変行伝導かの確証も得る事が出来た。一見、心房細動は不規則なRR間隔であるが、二次元図形表示によりそのなかに潜む規則性を抽出できた。本法はカオスから規則性を解析するのに有用な方法である。
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