研究概要 |
心筋スタニング(myocardial stunning)に対する42℃熱ストレス効果には個体差が大きく、良い再現性が得られなかった。そこで、HSP72の誘導の方法として、熱ストレスではなく、冠動脈閉塞による心筋虚血を用いて検討中である。すなわち、心筋スタニングの作成の24時間前に家兎を麻酔下に開胸し、冠動脈の5分間閉塞5分間再灌流を5回反復した後に手術創を閉じて回復させる。これと同様のプロトコールが心筋細胞におけるHSP72を誘導することが最近他の研究室より報告されている。また今年度は、HSP72の心筋保護作用の機序として、ATP感受性K(KATP)チャネルの開口ならびにNa^+-H^+交換系(NHE1)抑制を仮定し、心筋スタニングにおけるNHE1、KATPチャネルの役割を検討した。家兎において5分虚血5分再灌流を5回反復して心筋スタニングを誘発すると、再灌流90分後も収縮期局所心筋壁厚率(systolic thickening fraction:TF)は虚血前の35.7±3.3%に低下した。KATPチャネルの阻害薬であるglibenclamide(0.3mg/kg)、5-hydroxydecanoate(5mg/kg)を前投与した場合、虚血前ならびに心筋スタニング誘発後の冠動脈血流、TFに影響はみられなかった。一方、NHE1の特異的な拮抗薬であるHOE642の虚血前静脈内投与により再灌流90分後のTFは62.9±5.8%に改善し、この心筋保護効果はglibenclamide,5-hydroxydecanoteのいずれによっても遮断された。これらの成績により、心筋虚血時のNHE1抑制が心筋スタニングを軽減することと、その効果にはKATPチャネルの開口が必要であることが示唆される。HSP72の誘導がNHE1ならびにKATPチャネル及ぼす影響についても今後検討する予定である。
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