ストレス蛋白質の誘導による虚血心筋保護の有無とその機序におけるATP-感受性Kチャネル(K_<ATP>チャネル)の役割を検討した。熱ショックや短時間の虚血は心筋細胞のHSP70の発現を誘導したが、心筋スタニングの抑制効果はごく軽度であり、心筋梗塞の抑制効果は認められなかった。またHSP70発現の誘導と心筋スタニングへの保護効果には時間経過の上で乖理があり、HSP70自体が心筋保護の機序に関与していることは否定的と考えられた。そこで、当初HSP70との関連を検討する予定であったK_<ATP>チャネルとアデノシン受容体、ブラディキニン受容体による心筋保護との連関を解析した。これらの受容体の特異的作動薬eの虚血前の投与により心筋梗塞は抑制され、この心筋保護効果は、Cキナーゼ阻害薬calphostinCならびにミトコンドリア内膜に存在するKATPチャネル(ミトコンドリアK_<ATP>チャネル)阻害薬である5-hydroxydecanoateでほぼ完全に遮断された。一方、細胞膜上のK_<ATP>チャネルとその特異的阻害薬であるHMR1098に影は響を受けなかった。またミトコンドリアK_<ATP>チャネルをdiazoxideにより直接刺激するととアデノシン受容体、ブラディキニン受容体刺激と同様な梗塞抑制が認められ、虚血後のミトコンドリア機能障害も有意に軽減した。この結果と、CキナーゼがミトコンドリアK_<ATP>チャネルの開口を促進することを考え併せると、アデノシンA1受容体、ブラディキニンB2受容体はCキナーゼの活性化を介して、ミトコンドリアK_<ATP>チャネルを活性化し、ミトコンドリア障害を軽減すると共に、虚血心筋細胞壊死を抑制すると考えられる。さらにK_<ATP>チャネルとNHEの抑制による心筋スタニングの軽減、心筋梗塞の抑制の関連を検討した結果、NHE抑制が直接的にミトコンドリアK_<ATP>チャネルを開口させるのではないが、このチャネルの開口はNHE抑制による心筋保護効果に必要であることが示された。このように、ミトコンドリアK_<ATP>チャネルは心筋保護に関する複数の細胞情報伝達に関与しており、今後さらなる機能解明が重要であると考えられた。
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