【目的】心不全に至る過程で、長い拡張期の冠動脈圧・流量(P-F)関係を求めることにより、内皮依存性および非依存性拡張性と自律神経系が冠循環動態に及ぼす影響について検討した。【対象と方法】雑種成犬の冠動脈左前下行枝にドップラー血流プローブを、右室にペーシング電極を装着し、完全房室ブロックを作製した。同手術7〜10日後に血行動態指標を測定した後、ペーシングを一時停止することによりP-F関係を求めた。内皮依存性拡張能を評価するためにアセチルコリン(ACH)を、非依存性拡張能評価するためにアデノシン(ADE)を冠注後、交感神経刺激薬としてノルエピネフリン(NE)冠注後、β受容体遮断薬プロプラノロール冠注後とさらにNE冠注後、α1受容体遮断薬ブナゾシン冠注後とさらにNE冠注後、α2受容体遮断薬ヨヒンビン冠注後とさらにNE冠注後にもP-F関係を求めた。その後、ペーシング頻度を240/分に設定し3週間高頻度ペーシングした時点で、同様に計測した。【結果】ACH冠注後、心不全時にも非心不全時と同程度の冠血流増加がみられた。ADE冠注後、心不全時の血流増加作用は減弱していた。NE冠注後、非心不全時には冠血流が減少する傾向がみられたのに対して、心不全時には軽度であるが冠血流は有意に増加した。β受容体刺激は冠血流増加作用を有するが、心不全時に減弱する傾向がみられた。α1受容体刺激は非心不全時には冠血流不変なのに対して、心不全時には冠血流は減少した。α2受容体刺激は、非心不全時には冠血流減少するのに対して、心不全時にはむしろ不変か増加した。【結語】慢性心不全時に、内皮依存性拡張能は必ずしも減弱していないが、非依存性拡張能は減弱しており、心不全の進展に関与していると考えられた。さらに交感神経刺激が加わると、冠血流は軽度ながら増加しており、α2受容体を介した冠動脈拡張作用が寄与しており、冠循環に保護的に作用していると考えられた。
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