研究概要 |
近年、高血圧の成因を細胞膜や細胞レベルでの変化からとらえようとする考え方が提唱され、細胞内電解質代謝異常を中心に検討が加えられてきた。我々も既に細胞膜機能が高血圧群で変化していることを示してきた。そこで本研究ではヒト本態性高血圧患者の赤血球膜を用いて電子スピン共鳴ならびにスピンラベル法により細胞膜流動性を測定し、その調節因子について検討した。電子スピン共鳴によって観察した赤血球膜流動性は本態性高血圧群で正常血圧群に比し有意に低下していた。また、その変化はCa^<2+>負荷やNa^+,K^+-ATPase inhibitorであるouabain存在下で増強することにより、Ca^<2+>ならびにNa^+代謝異常が膜機能調節に重要な役割を果たすものと考えられた。一方、高血圧群では血漿インスリン濃度は正常血圧群に比し高値を示したが、インスリン濃度の高いものほど赤血球膜流動性は低下していた。さらに、in vitroにおいてインスリンは濃度依存性に赤血球膜流動性を減少させ、その効果はCa^<2+>存在下で増強し、逆にCa^<2+> channel blocker diltiazemによって拮抗された。また、インスリンに対する反応性は高血圧群で低下していた。Glucose単独では膜流動性に影響を及ぼさなかった。これらの成績より、高インスリン血症を伴った高血圧の細胞膜機能調節にインスリンが関与し、その作用の一部は細胞内Ca^<2+>動態の変化に関連したものである可能性が示唆された。
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