研究概要 |
原発性および二次性肺高血圧症はともに難治性の重篤な疾患であり,未だ有効な治療法は確立されていない。また,その病態生理についても十分解明されていないが,最近,肺高血圧症患者の肺血管床において強力な血管弛緩性因子である一酸化窒素(NO)の産生低下が報告されており,病態への関与が推測されている。さらに,NOの吸入療法が肺高血圧の軽減に有効であることが明らかにされ,臨床応用が試みられている。近年の分子生物学のめざましい進歩により,ADA欠損症を始め各種難治性疾患の遺伝子治療が現実となってきている。今回,我々は,肺動脈へのcNOS遺伝子導入による肺高血圧症に新しい治療法の開発を目指す。 平成8年度の研究成果としては,まずlacZ遺伝子を組み込んだAAVベクター(AAV-LacZ)を作成した。作成したAAV-LacZ濃度の検討では,dot blot法で1.6x10^<10> particles/ml/10cm dishのウイルス粒子が検出され,293細胞を標的とした場合は1x10^6 infectious units/ml/10cm dishのウイルス液が得られている。さらに,このAAV-LacZをラット大動脈平滑筋細胞へ感染させ,β-galactosidase染色により遺伝子導入を確認した。(第60回日本循環器学会学術集会発表,論文投稿中)。 さらに,cNOS遺伝子を組み込んだAAVベクター(AAV-cNOS)を作製した。AAV-eNOSをラット摘出大動脈に遺伝子導入することにより、血管の拡張性が亢進することをあきらかにした(第61回日本循環器学会学術集会発表予定)。 平成9年度は,さらにAAV-cNOSを肺高血圧症モデルラットの肺動脈へ導入し,肺高血圧の発症を予防,または軽減できるかについて検討する予定である。
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