研究概要 |
[目的]本年度はACE遺伝子多型と体液性因子および心肥大との関係を検討した。[対象と方法]心臓カテーテル施行例において、EFが50%以上でかつ右房圧が8mmHg以下を示し心機能が正常と判断した100例を対象とした。末梢血白血球より抽出したゲノムDNAを用いてPCRを行い、電気泳動にてII、ID、DDのACE遺伝子型を決定した。早朝空腹安静臥位の状態で採血し、血漿レニン活性(PRA)、血漿アンギオテンシンII、アルドステロンおよびANP濃度(PAII,PAC,PANP)、ならびに血清ACE活性を測定した。左室心筋重量係数(LVMI)を心エコーにて計測した。[結果]ACE遺伝子型はII型41例、ID型46例、DD型13例であった。3群とも年齢、男女比に有意差はなかった。EFは3群間で差がなく、心係数、平均動脈圧や右房圧にも3群間で差は認めなかった。PRA、PAII、PACも3群間で差はなかったが、血清ACE活性はDD群において他の2群より有意に高値であり、PANPはDD群(19.6±3.3pg/ml)において他の2群(II;35.2±5.1,ID;35.7±6.1)より有意に低値であった(p<0.05vsII+ID)。一方、LVMIはDD群(157.0±5.0g/m^2)において他の2群(II;137.7±5.5,ID;137.4±6.2)より有意に高値であった(p<0.01vsII,ID)。[考察]ACE遺伝子多型が循環器疾患のリスクに関与するとされている。心機能が正常な症例においてACE遺伝子多型と体液性因子およびLVMIを検討した本研究においてDD型で血清ACE活性の高値とLVMIの増大が示された。PANPは心肥大で増加するとされているが、心肥大を示すDD型において低値を示した。DD型においてPANPが低値を示すことはANPが降圧、利尿、血管平滑筋細胞増殖抑制作用などの循環器疾患の病態を改善する作用を有していることを考慮するとDD型における循環器疾患のリスクの増大にANPの低下が関与する可能性も示唆され、興味深い所見と思われる。
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