研究概要 |
【目的】血管平滑筋の増殖・遊走の分子機構を解明する一環として、PDGFによる遊走・増殖におけるphosphatidylinositol 3-kinase(PI3K)の役割を検討した。【方法】培養ラット大動脈平滑筋にたいするPDGFの作用発現におけるPI3Kの役割を特異的PI3K阻害剤(wortmanin[WT]およびLY294002[LY])およびdominant negative PI3Kを用いて検討した。遊走はBoyden chamberを用いて調べた。免疫沈降によりPI3Kを部分精製し、phosphatidylinositolを基質としてPI3K活性を測定した。PDGFによる細胞骨格の変化に対するWTの効果についてはTRICT-phalloidin染色により検討した。糖取り込みは3H-deoxyglucoseを用い、アミノ酸取り込みは3H-leucine,3H-arginine、3H-prolineを用い、またDNA合成は3H-thymidineを用いて計測した。【結果】WT(10-9-10-6M)およびLY(10-5M)はPDGFによる平滑筋およびSwiss 3T3細胞の遊走に影響を与えなかった。この濃度のWTはPDGFによるPI3K活性化を濃度依存的に抑制した。さらに、dominant negative PI3Kを過剰発現させたCHO細胞(CHO/Δp85 cells)はPDGFにより親株細胞と同程度に遊走した。一方、WTはPDGFによるSwiss 3T3細胞のstress fiberの消失を濃度依存的に抑制した。また3種類の異なるアミノ酸取り込みはWTにより完全に阻害された。PDGFによる糖取り込みおよびDNA合成促進は、WTにより部分的に阻害された。【考察】これまで、PDGFによる細胞遊走作用にはPI3Kの活性化が不可欠であるとされてきたが、我々の研究により血管平滑筋遊走の細胞内情報伝達経路にはPI3Kが関与していないことが判明した。これは、同じ増殖因子であっても、細胞種が異なると、細胞内情報伝達系路が異なることを示している。PI3KはPDGFによるアミノ酸取り込みやDNA合成に関与することで、動脈硬化や高血圧の血管病変形成に関与しうる。
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