昨年度の報告では1992年以降にtoxic shock-like syndrome(TSLS)を含む重症感染症患者から分離されたT1型A群溶連菌のゲノムプロファイルは1991年以前に非化膿性合併症、敗血症などの重症感染症患者から分離されたT1型の株のそれらと明らかに異なっており、この時期におけるT1型A群溶連菌の新しいクローン株の出現が示唆された。今年度はこの結果をもとにさらに1996年までに分離された重症・劇症型感染症患者の株に加え、咽頭・扁桃炎患者からのT1型A群溶連菌についてもそのゲノムプロファイルを調べた。 1979〜1991年に非化膿性合併症、敗血症患者から分離されたT1型A群溶連菌10株中8株のゲノムプロファイルは同一で、さらにこれは同時期に合併症のない咽頭・扁桃炎患者から分離された同菌48株中35株のゲノムプロファイルと同じであった。一方1992〜1996年にTSLSなどの劇症・重症感染症患者から分離されたT1型溶連菌18株のゲノムプロファイルはすべて同一で、同時期に咽頭・扁桃炎患者から分離された19株中18株のプロファイルと同じであった。すなわち1991年以前と1992年以降において分離されたT1型A群溶連菌のゲノムプロファイルは疾患に関わらずそれぞれ同じであった。しかし1992年以降に分離された株のゲノムプロファイルは1991年以前に分離されたプロファイルと全く異なるものであった。重症感染症患者からの分離株と同様に咽頭炎患者からのT1型分離株のゲノムも1992年以降変化していることが判明した。1992年以降増加してきたTSLS患者から分離されたA群溶連菌の多くはT1型であり、この時期に一致したこの血清型のA群溶連菌のゲノム変化あるいは新しいクローン株の出現は日本におけるこうした疾患の増加の原因の1つである可能性がある。
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