1、対象:鈴木の診断基準(1992年)を満たし、母親の尿中β_2-microglobulinが軽度高値を示す特発性尿細管性蛋白尿症の患者4家系を対象とした。正常女性50名をコントロールとした。 2、方法:患者、その母親、兄弟とコントロールの末梢血から白血球を採取し、genomic DNAを抽出した。4家系の患者それぞれについて腎尿細管のクロライドチャンネルCLCN5の12のエクソンをPCR法にて増幅し、DNAシークエンスを行った。異常の見られたエクソンにつては患者の母親、兄弟、コントロールについて同様の方法で増幅した。 3、結果:(1)4家系にそれぞれれ異なるCLCN5遺伝子の変異を認めた。変異の内訳はNonsense mutation2種類(Codon279TGG⇒TGA、Codon343TGG⇒TAG)、Missense mutation1種類(Codon280CGT⇒CCT)、Frameshift mutation1種類(Codon695Cdeletion)でった。Codon279のNonsense mutationは英国人のDent病患者にみられた変異と同一であった。 (2)制限酵素を用いた解析によりいずれの母親にも患児に見られた変異と同一の変異を有していた。 (3)4家系に見られたCLCN5遺伝子の変異は正常コントロールには見られない固有の変異であった。 4、考察:私共はわが国の特発性尿細管性蛋白尿症が英国のDent病の初期像である可能性を指摘していたが、遺伝子解析の方法により母親の尿中β_2-microglobulinが軽度高値を示す特発性尿細管性蛋白質尿症が遺伝子異常の点でDent病と同一の疾患であることが明らかとなった。 5、今後の方向:来年度はより多数例の患者のCLCN5遺伝子の解析を行う。母親の尿中β_2-microglobulinが高値でない症例のCLCN5遺伝子異常の有無についても明らかにする。
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