本年は、QRST積分値図による心筋障害の定量的判定のために、昨年までの成果に引き続き先天性の冠動脈起始異常例と心筋障害を起こすアントラサイクリン系薬剤を投与した症例について相関係数Rを検討した。その結果、冠動脈起始異常例では、乳児期発症の重症例では低いR値を示す一方、幼児期に発症した比較的軽症例では正常範囲内の高いR値を示し病勢を反映していた。アントラサイクリン投与例では、断層心エコー図により心機能を判定し、駆出率が60%以下で低下していた群(9例9検査)のR値は平均0.82±0.11、駆出率正常群(8例13検査)での平均0.88±0.06に比し低値であった。 さらに、心筋障害による再分極異常の成因を解明するために、心筋局所の活動電位持続時間と相関があるActivation Recovery Interval(ARI)により、心疾患を有しない正常小児20例と心筋障害を有し、その推移により複数回電位図を記録し得た5例を検討した。正常小児20例でのARI等時線図の分布は、ARI値は主に右前胸部および背部で延長、左前胸部及び背部で短縮しておりその領域は特に胸部下方で広がっており、その境界域では急激なARI値の変化が見られていた。心筋梗塞後は、ARI値の延長している領域は右前胸部および背部でほぼ同様であるが延長している領域の下方への拡大が見られた。すなわち、心筋障害部位のARI値は延長していることが判明し、その部位の心筋細胞の活動電位持続時間が延長することを示唆している。この結果は、in vitroでの心筋細胞を虚血下において活動電位持続時間は延長するという報告に一致し、再分極異常の成因の一つと考えられた。
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