平成10年度は、超音波スクリーニングにより発見された膀胱尿管逆流症児の経過を抗生物質の予防投与を行わずに観察したところ、いずれも腎孟腎炎を発症することなく順調に経過し、膀胱尿管逆流症児は必ずしも尿路感染症を発症しないことが明らかとなった。また、排尿誘発時の膀胱の超音波検査によって、排尿量、残尿量、尿流速の測定が可能であり、新生児では女児より男児の方が有意に残尿量が多いこと、尿流速が小さいことを明らかにした。これは、男児では女児より尿道の抵抗が大きいことによるものと考えられた。残尿は尿路感染症のリスクファクターの一つとして知られており、残尿が多いことが、新生児期において女児より男児に尿路感染症の多いことの原因の一つである可能性が考えられた。これまでの検討により、VURは約1%、VURを伴う低形成腎は男児の0.3%に存在することが明らかとなった。しかし、小児末期腎不全の年間発生頻度は100万人当たり1.5-7人で、このうち先天性尿路奇形によるものは約半分であり、このほとんどは尿路閉塞(水腎症)ないし高度の腎形成異常(低形成異形成)によるものであることが、近年の検討によって明らかにされた。尿路閉塞や腎形成異常を伴わないVURは、腎機能障害や腎不全にまで至ることはまれであり、費用対効果の点を考えると、腎機能障害を起こしやすい尿路閉塞や腎形成異常の早期発見が有効と思われた。これらの高度の異常は産科医によってルーティーンに行われている母体と胎児の超音波検査時に発見が十分可能であり、これとは別に新生児期ないし乳児期に超音波スクリーニングを行うことによる医療効果は、かかる費用に見合うものとは考えにくい。したがって、産科医による胎児超音波検査を一次スクリーニングとして活用し、異常を疑われた児に対して出生後に精査を行う方がより効率的であると思われた。
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