研究概要 |
小児の難病の一つである先天性高乳酸血症の病因として最も多いピルビン酸脱水素酵素(PDH)α-サブユニット(E1α)欠損症は,E1αの機能面からピルビン酸結合能の低下,補酵素であるビタミンB1結合能の低下および脱リン酸化能低下に分類することができる。E1α欠損症患者にみいだされる変異遺伝子に由来する変異酵素蛋白質の機能異常を検討するためは,変異遺伝子から変異酵素蛋白質を合成する発現系が必要である。ピルビン酸脱水素酵素は6つの酵素蛋白質から構成される巨大な酵素複合体であり,この酵素複合体の機能異常を検討するための発現系作製のためには,E1α以外の5つの酵素蛋白質が正常な宿主細胞が必要である。しかし,現在までこのような宿主細胞を用いた発現系は作製されておらず,これらの遺伝子変異が病因であることを確認し,どのような機能異常をきたすかを検討することはできない。また,このような発現系を作製し,遺伝子変異と機能異常との関連性を明らかにすることによりE1α欠損症の遺伝子病型診断法を確立とともに本症の治療法の開発が期待される。そこで,本研究ではまず正常E1αcDNAをPCRで増幅後,クローニングし,CAGプロモーターとともに哺乳動物細胞内発現ベクターに挿入して正常E1α蛋白発現用ベクターを作製した。ついで,E1α欠損症患者から得られた得られた末梢リンパ球をEBウィルスで形質転換し培養リンパ芽球様細胞株を樹立した。この培養リンパ芽球様細胞に正常E1α蛋白発現用ベクターを導入・選択後,酵素蛋白量および酵素活性を測定したところともに正常対照と同程度まで増加しており,E1α遺伝子発現システムを確立することができた。これにより本発現系を用いて,患者でみいだされた変異E1α遺伝子を発現させ,遺伝子変異が病因であることを確認するとともに遺伝子変異と機能異常との関連性を明らかにすることが可能となった。
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