研究概要 |
インスリン依存型糖尿病(以下IDDMと略)は膵ランゲルハンス氏島(膵島)へのリンパ球の浸潤(insulitis)と膵島細胞成分に対する自己抗体の出現を主たる特徴とする自己免疫疾患である。我々は、IDDMの優れたモデル動物であるNODマウスを用いて、その発症機序の解明さらには発症予防法の開発を目的とした研究を進めてきた。その結果、以下の成績が得られた。 (1)膵島浸潤リンパ球の検討 膵島浸潤リンパ球の大部分はCD4陽性(helper T)細胞およびCD45RB陽性細胞であった。CD45RB陽性細胞は、サイトカインのうちインターロイキン2(IL-2)を分泌するI型helper T細胞(Th1)の働きを有すると考えられていることから、上記の結果はinsulitis局所ではTh1>Th2の状態になっていることを示すものである。すなわち、insulitisの発現にはTh1・Th2バランスのTh1>Th2への偏位が関与している可能性が示唆された。 (2)β-1,6;1,3D-glucan投与実験 NODマウスに対してβ-1,6;1,3D-glucanを投与したところ、insulitisの出現を抑制し、顕性糖尿病の発症率を低下させた。また、β-1,6;1,3D-glucan投与NODマウスでは、CD4陽性およびCD45RB陽性の浸潤リンパ球の割合が低かったことから、本剤の投与によってTh1>Th2のTリンパ球の偏位した状態が改善され、insulitisが抑制された可能性が考えられた。 (3)インスリン様成長因子I(IGF-I)投与実験 IGF-Iはインスリンと構造的homologyを有し、インスリン類似の代謝作用を有するペプチドであり、直接的に免疫系に影響を及ぼす作用は有していない。これまでの報告で、発症前からのインスリンの投与でNODマウスの糖尿病発症が抑制されることが知られていたが、今回我々の研究で、IGF-Iの投与によっても糖尿病発症を有意に遅らせ、かつ低下させることが明らかとなった。その機序については現在検討中である。
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