平成8年度は開発に必要な溶レン菌M蛋白に対する唾液中lgA抗体と血清中lgG抗体のエピトープを決定した。M蛋白の三次元構造はほぼaヘリックスを示すが、M蛋白C領域にはaヘリックス内に2個のターンを示す部位(SRKGLとSRQGL)が挿入されている。唾液中lgA抗体はこの2個のターンの部位の内の1個のターンの部位(SRKGL)だけを認識していた一方、血清中lgG抗体は上記の2個のターンと近傍のaヘリックス部をエピトープとしていた。ワクチン開発上重要な点になるが、ターンの後方にヒト心筋ミオシンと相同性の高い部位が存在することもわかった。 平成9年度は、上記のエピトープ部位で新しいペプチドを作成し免疫操作を行った場合、ヒトにおける自然感染と同様の抗体を作成できるか、得られた抗体がオプソニン活性を持つか、ヒト心筋と交叉反応を示す抗体が出現しないか検討を行った。新しいペプチドはターンとその前方の組み合わせ、ターンとその後方の組み合わせ、ターンと前後両方の3種類を二つのターンで作成した。免疫動物には家兎を用いた。抗ミオシン抗体は障害心筋と結合性が高いので、作成した抗ペプチド抗体のミオシンとの交叉性は障害心筋を用い免疫組織学的に検討した。 ターンとその前方の組み合わせで免疫を行うとより特異的な抗体が得られた。ターンの後方のアミノ酸はミオシンと相同性を持っているが、同部位に対する抗体は障害心筋と免疫組織学的な交叉性は示さなかった。唾液中lgA抗体のエピトープを含むペプチドで得られた抗体の方が、オプソニン活性が強かった。 唾液中lgA抗体のエピトープ部を中心にしたペプチドによりワクチンを作成することが可能と考えられた。
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