平成8年度は開発に必要な溶レン菌M蛋白に対する唾液中IgA抗体と血清中IgG抗体のエピトープを決定した。M蛋白の三次元構造はほぼαヘリックス構造を示すが、M蛋白C領域にはviridansヘリックス内に2個のターンを示す部位が挿入されている。唾液中IgA抗体、血清中IgG抗体ともにこの2個のターンと近傍のαヘリックス部をエピトープとしていた。ワクチン開発上重要な点になるが、ターンの後方にヒト心筋ミオシンと相同性の高い部位が存在することもわかった。 平成9、10年度は、上記のエピトープ部位に基づいたペプチドで家兎に免疫した場合、ヒトと同様の抗体を作成できるか、得られた抗体がオプソニン活性を持つか、ヒト心筋と交叉反応を示す抗体が出現しないか検討した。心筋ミオシンと相同性を持つペプチドに対する抗体はミオシンと反応したが、アミノ酸配列の相同性によるものではなく、非特異的反応であった。相同性のある部位をdeleteしたペプチドではミオシンと非特異的反応も示さなかったが免疫源性がやや弱かった。オプソニン活性は使用したペプチド抗体すべてが持っていた。ワクチン抗原として、ミオシンと相同性のある部位をdeleteし、またC領域すべてを用いれば、非特異的反応も起こさず、また免疫源性を高めることができ、ワクチン開発が可能と考えられた。 また平成10年度まで、ワクチンベクターとして用いるS.gordniiを含む口腔内viridansレンサ球菌の安全性を再検討した。ここ数年、口腔内viridansレンサ球菌による敗血症の報告が増加しつつある。健常児に抗菌剤を使用すると、ペニシリン耐性のviridansレンサ球菌の検出頻度は使用前が12.5%であるのに対し、使用後は31.3%に上昇していた。また血液腫瘍患児のペニシリン耐性viridansレンサ球菌の検出率は39.4%であった。一方、過去数か月間抗菌剤を投与していない児童で口腔内viridansレンサ球菌のペニシリン感受性をみると、31人中19人は耐性株を持っていた。口腔内viridansレンサ球菌生菌をベクターとすると耐性化の問題が出現することが考えられ、接着分子をベクターとした実験を開始した。
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