研究概要 |
初年度にひき続きp53欠失マウス[以下p53(-)]の造血幹細胞の特性につき検討した。先ず、300cGyのin vivo放射線照射を行い、その後の白血球数の変動を検討したところ、p53(-)では照射後早期には有意に高い回復を示したが、対照群が回復する10日目には両者間に差はなかった。次に骨髄細胞にin vitroで段階的な線量で放射線照射し、CFU-GMとCFU-Sの生存率の変化を解析したところ、p53(-)の生存曲線は対照に比べフラットな曲線をなし低感受性を示した。また、ヘテロp53(-)のそれは対照とホモ欠失の中間の値であった。CFU-GMとCFU-SのD_0値はそれぞれ対照:170,97,ヘテロ:200,170,ホモ欠失:400,280cGyであった。end-labelingにより脾コロニー細胞を検討したところ、p53(-)ではアポトーシスを含むコロニーの比率が増加しており、幹細胞を増殖・分化せずに消滅させる[恒常性維持機構]の存在を反映していると思われた。また、p53(-)では照射によってもこれらが増加せず、p53欠失により幹細胞がアポトーシスから逸脱した結果と考えられる。造血幹細胞のin vivo増殖動態の解析には浸透圧ポンプでBrdUrdを持続注入し、UV照射後のコロニー減少率からその間の増殖分画を算定する方法を用いた。CFU-GM動態をIL-3とGM-CFSを刺激因子としてコロニー形成させた場合で比較をしたところ、6日間ラベル後のCFU-GMの殺傷率はIL-3群で13.3%,GM-CSF群で35.1%と両者の間で異なり、IL-3に反応する分画とGM-CSFに反応する分画が同一ではないことが明らかになった。さらにp53(-)と野生型対照で経時的にCFU-GMの増殖分画を検討したところ、BrdUrd投与開始後早期にp53(-)で大きいが、第5日目には対照と同一になった。これはp53(-)の造血前駆細胞は野生型よりも短い細胞周期で増殖しているが、最終的に細胞周期に入る前駆細胞の割合は変わらないことを示唆している。
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