研究概要 |
小児期に致死性の病態を呈するEBウイルス感染に続発する「血球貧食症候群」(HPS)は、弛張熱の持続、発疹、肝脾腫、漿膜炎などに特徴付けられ、血清フェリチン値が著増することが知られている。他方、「全身型若年性関節リウマチ」(S-JRA)は同様の症状に関節炎が加わり、やはり血清フェリチン値が著増する。しかも典型的な経過の後に「血球貧食像」を呈することがあり、Stephanらに従い「マクロファージ活性化症候群」(MAS)と命名される。今年度の本研究の主旨である「EBウイルス感染症の活動性診断」を検討する過程で、この三者の関連性について検討を行った。この結果、S-JRAに感染などの外的因子が加わることにより異常な高サイトカイン血症が生じ、この病態はHPSに極めて類似したものであることが推定された。すなわちT細胞由来サイトカイン(IL-2,IFN_γ,M-CSF)もマクロファージ由来サイトカイン(IL-1,IL-6,TNF)も著増し、サイトカイン調節が脱制御された状態に至った病態と判断された。またこの考え方に沿った治療が奏功することも病態の理解が的確であることを示唆している。すなわち高サイトカイン血症の改善に血漿交換療法を行い、活性化T細胞の鎮静化にサイクロスポリンを、また活性化マクロファージの鎮静化にリポ化ステロイドを用いることにより、血球貧食症候群の臨床像は急速に改善し、救命に至ることが実証された。本研究の成果として、85〜90%致死率であったHPSを適切な時期に三者療法を開始することにより約10%に低下させることに成功した。また今後の研究の方向として、S-JRAをJRA分類より独立させ病態に沿った治療法の改善に向け、とくに血管内皮細胞および凝固線溶系の動態について詳細に検討する必要が生じた。
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