血友病犬をモデルとした遺伝子治療を行うにあたり、ヒト第VIII因子とイヌ第VIII因子の生物学的活性および構造上の相違を明らかにすべく基礎的研究を行った。 1.凝固一段法を用いたヒトおよびイヌ第VIII因子活性の測定 正常イヌ75匹から得られた血漿を用いて測定したプロトロンビン時間は平均6.7秒(正常ヒト対照10〜13秒)、また部分トロンボプラスチン時間は平均10.5秒(正常ヒト対照30〜35秒)とヒトに比してイヌの凝固能は亢進していることが予想された。続いて正常イヌプール血漿中のイヌ第VIII因子活性を測定したところ正常ヒト第VIII因子のほぼ10倍の活性を有していることが明らかになった。 2.抗ヒト第VIII因子抗体を用いたイヌ第VIII因子のヒト第VIII因子に対するcross-reactivityの解析 ヒト第VIII因子H鎖44kDaフラグメントを認識する同種抗体のヒト第VIII因子に対するイヌ第VIII因子のcross-ractivityは10〜39%。同じくL鎖72kDaフラグメントを認識する同種抗体では125〜157%であった。H鎖54kDaおよび44kDaフラグメントを認識するモノクローナル抗体のcross-reactivityはそれぞれ、2.7%および0%であった。 一方、L鎖のうちA3ドメインおよびC2ドメインを認識するモノクローナル抗体のcross-reactivityはそれぞれ、0%および130%であった。これらの結果より、イヌ第VIII因子はひと第VIII因子に比してH鎖A1、A2およびL鎖A3ドメインの相同性は低く、L鎖C2ドメインの相同性が高いことが明らかとなった。
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