先天性表皮水泡症栄養障害型で欠損するVII型コラーゲン遺伝子のcDNAクローニングを行い、そのcDNA全長を構築した。それを申請者らが見出した生体表皮細胞で遺伝子を強力に発現するカセットに挿入し、naked DNA法を用いてラット生体表皮細胞に導入した。VII型コラーゲンの抗体で染色したところ、24時間後には表皮細胞でVII型コラーゲンの発現が認められ、さらに一週間後には基底膜部にその沈着が認められた。この結果は、本症の遺伝子治療が可能であることを示すものであった。 現在種々のサイトカインが実際に患者に用いられ、サイトカイン遺伝子を用いる遺伝子治療が難治性の疾患の治療法として期待されている。そこで、申請者らは表皮細胞で産生されるサイトカインIL-6のcDNAをクローニングし、同様の発現カセットに挿入し、ラット生体表皮細胞に導入した。その結果ラット皮膚に表皮の肥厚とリンパ球の浸潤が誘導され、IL-6により皮膚炎が起こることがはじめて示めされた。次に、IL-6遺伝子に変異を導入し、そのantagonist遺伝子を作成した。さらにIL-6遺伝子を導入する直前に、そのantagonist遺伝子を導入したところ、IL-6遺伝子による皮膚炎が抑制された。難治性の皮膚疾患である乾癬では、表皮細胞のIL-6の産生が亢進しているので、IL-6のantagonist遺伝子を用いる乾癬の遺伝子治療の可能性を示唆するものであった。また申請者らは、同様にしてIL-10遺伝子を導入し血中濃度を測定したところ、生理活性を示す濃度にまでIL-10の濃度の上昇が認められた。そこで、IL-10が抗炎症性のサイトカインであることに着目し、IL-10遺伝子をラット背部に導入し、耳部でのDNCBによる接触皮膚炎の抑制を試みた。その結果、接触皮膚炎の抑制が認められ、表皮細胞をバイオリアクターとする全身性疾患の遺伝子治療の可能性が示唆された。
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