単離ヒト毛包をSCIDマウスに移植し、その経時変化を追った。生着率は45%と低かったったが、生着しなかった毛包はほとんどが移植後1週間以内であった。おそらくマウスが機械的に除去したためであると考えられる。この時期の移植毛包の固定法を改良することにより、生着率は改善されると考えられる。肉眼的には移植毛は一度脱落し、その後再生が始まり毛が伸長した。この過程を組織学的、免疫組織学的および電顕的に検討した。その結果、生着した全ての移植毛包は移植40日目までは退縮し続け、45から60日頃に再生が始まり、それ以降少なくとも移植後150日目までは成長期の毛包を維持することが確認された。このことはこの系がヒト毛包研究のin vivo実験系として利用できることを示している。さらに、slow-cycling cellを指標にして毛包幹細胞の存在部位を同定するための実験には^3H-thymidineの投与時期は移植後40日前後ないしそれ以前が適当であると考えられた。現在、この実験を実施中である。 一方、移植直後の退縮中の毛包には、波状で肥厚した硝子膜、毛球部下部の萎縮像とアポトーシス細胞が認められた。電顕でもアポトーシス像は確認された。これらの点で正常毛包周期における退縮期毛包に類似している。しかし、この時期の移植毛包には、正常の退縮期と休止期には存在しないはずの毛乳頭をその先端に維持し続け、さらにその毛乳頭や毛包周囲結合組織にメラノファージを多数認めた。さらに、免疫組織化学的にPCNA陽性細胞やBrdUの取り込み細胞が存在していた。これらのことから、移植毛包の経時変化は、正常の毛周期のように、成長期から退縮期、ついで休止期、そして再び成長に移行したのではなく、抗癌剤投与時の毛髪障害の際に認められる、dystrophic anagenの回復過程と類似の経過を示したものと考えられた。すなわち、移植時操作時の障害により一時的に成長期が停止ただけであると考えたい。
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