研究概要 |
申請者らは皮膚における幹細胞増殖因子(SCF)の分布と機能,分泌機構を明らかにするために以下の研究を行った。炎症性病変には必ずメラノサイトの機能増加とマスト細胞の増殖を見る。分化型表皮角化細胞株であるRHEKとSCCでは著明なSCF産生を認めた。SCFには骨髄細胞増殖能力にとむ膜結合型と骨髄細胞増殖機能の低い可溶型の2種が存在する。線維芽細胞及び真皮組織抽出SCFの分子量が既知の膜結合型に相当する高分子であるのに対し,これら細胞のSCFは分子量が21KDと小さく,可溶型SCFに近い分子量であることが判明した。しかし,PCRを用いたmRNAレベルではこれらは膜結合型のシークエンスをもつところから,非糖鎖修飾でしかもpost translational modificationを受けていることが想定された。ところが正常表皮細胞の培養系ではSCFは検出限度以下であった。そのため,正常表皮細胞とマスト細胞との混合培養系でのSCFの分解溶出は測定不能であった。組織学的検討においても表皮内SCFの分布は基底層以外に高く,基底細胞では検出されず,SCFの発現が分化依存性あるいはCa++依存性が推測された。アトピー性皮膚炎,膠原病などの慢性炎症の病巣部ではSCFの発現が表皮構造の破壊とともに基底層付近にも認められ,同部位に一致してKit陽性マスト細胞の集積を見出した(投稿中)。このことは表皮細胞由来SCFが多くの炎症においてマスト細胞の局所での分化,活性化に寄与している可能性を示唆している。また,この時期の患者血清には正常人血清とくらべ有意に多量の低分子SCFを検出できた(投稿中)。そこで高Ca++条件下で表皮細胞に物理的傷害を与えるとSCFは培地内へ遊出し,細胞膜からの離脱にCa++依存性酵素によるプロセシングを受けている可能性が高いことを見いだした。現在この系をプローブとしてこの酵素をケラチノサイトライブラリーからcDNA cloningを行い,陽性クローンのスクリーニング中である。
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