研究概要 |
ヒトTリンパ向性ウイルスI型(human T-cell lymphotropic virus type I,HTLV-I)は、末梢血のみならず全身の諸臓器に腫瘍性ないし非腫瘍性病変を起こすRNAウイルスである.最近の分子生物学的、免疫学的研究手法は現在まで成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)、HAM/TSPをはじめとするHTLV-I関連疾患におけるこのウイルスの関与と病態との関係を明らかにしてきた.しかしながら病変を構成する個々の細胞におけるHTLV-Iウイルスの存在、分布については未だ充分解明されているとは言えない.そこで形態学を加味した分子生物学的手法(in situ hybridization法、PCR-in situ hybridization)を用いてATLL患者、HTLV-Iキャリアの末梢血、皮膚組織でHTLV-Iのtax mRNAないしHTLV-IプロウイルスDNA tax sequenceの局在を検討することによりHTLV-I関連疾患の病態を検討した. その結果、キャリア、ATLL患者から採取した皮膚凍結切片においてtax mRNAの発現を検討したがキャリア、ATLL共に約70%の標本においてリンパ球ないし腫瘍細胞内に陽性シグナルを認めた.ATLLの皮膚病変におけるtax mRNAの発現の頻度と各病型との間には特に相関は認められなかった. 一方PCR-ISH法により可視化されたプロウイルスDNAはATLL、キャリアの腫瘍細胞、リンパ球のみならずエクリン汗腺上皮、血管内皮細胞内にも存在することが解った.このことはHTLV-Iのトロピズムの多様さを示し、感染経路およびシェーグレン症候群をはじめとしたHTLV-1関連疾患の発症機序の解明に貢献すること大であると思われる.
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