本研究の目的は選択的白血球シンチグラフィ(好中球イメージングとリンパ球イメージング)の開発と、潰瘍性大腸炎とクローン病への臨床応用にある。これらの疾患は炎症性腸疾患として分類されているが、病態や病理組織学的な背景は大きく異なり、病変部に浸潤する炎症細胞は潰瘍性大腸炎では主として好中球であるのに対して、クローン病ではリンパ球、マクロファージである。したがって、好中球とリンパ球を選択的にRIで標識しイメージングすることができるならば、潰瘍性大腸炎とクローン病の本質的な違いを反映した結果が得られると予想される。そのためには、まず高純度の白血球分離が必要となるが、これについては、モノポリ分離溶液を用いた遠心法の開発によって、99%純粋な好中球とリンパ球を得ることが可能となった。次に、この分離白血球へのRIの標識が必要となるが、99mTc-HMPAOをリガンドとして用いることによって好中球では最終的に80〜90%程度の、リンパ球でも25〜30%程度の標識率を安定して得ることに成功した。標識白血球の生存率をトリプトファンブルー染色で検討した結果では100%近い生存率であった。人体への臨床応用の前段階として、腸炎ラットを用いた動物実験を施行した。潰瘍性大腸炎に類似した急性期の病変部にはリンパ球イメージングでは明かな集積が認められなかったのに対して、好中球イメージングでは明瞭な集積像が確認された。一方、クローン病に類似した慢性期の病変部には好中球イメージングでは有意な集積がみられなかったのに対して、リンパ球イメージングでは病変部に一致して強い集積が認められた。また、病理組織学的な検討においてもそれぞれの病変部に対応して、好中球とリンパ球の有意の浸潤が確認された。結論として、動物実験のレベルにおいては、選択的白血球イメージング法によって潰瘍性大腸炎とクローン病の鑑別、活動性の評価、病変の広がりなどが十分に評価可能であると考えられた。人体への臨床応用もほぼ問題ないと考えられるが、ただ白血球分離にはモノポリ試薬をできるだけ用いない分離法を工夫するなどの必要があるものと思われる。今後、実際の患者に対しての臨床的応用を予定している。
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