小腸腺窩における分割照射中の再増殖能と増殖動態の機序を解明することを本研究の目的とする。増殖の機序はポテンシアル倍加時間(Tpot)の短縮または細胞喪失因子の減少によるとされている。本年度は分割照射中における小腸腺窩の標識指数(Ll)、S期の長さとTpotについて検討した。【材料と方法】C3H/Heマウスに一回線量2Gyを照射した。照射期間は1、3、5、7日間で、一日一回と二回照射群に分けた。最後の照射終了一日後にブロムデオキシウリジン(BrdUrd)と3H-チミジン(3H-dThd)を一定間隔で投与し屠殺した。摘出した空腸の同一切片から、免疫組織化学とオートラジオグラフィーによりおのおので標識した細胞核を可視化した。腺窩列におけるBrdUrdと[3H]dThdそれぞれの単標識と二重標識を数え、標識指数(L1)、S期の長さとTpotを計算で求めた。一腺窩当りの細胞も数えた。【結果】L1は、一日一回照射群と二回照射群で有意差はなく、照射期間により大きくなり、照射5日目でほぼ最大になった。S期の長さは、実験を通して不変であった。Tpotは、一日一回照射と二回照射群で差はなく、照射期間に伴って短縮した。照射5日目で最短になり以後変わらなかった。一方、腺窩の細胞数は照射五日まで増加し、以後変わらないのは同様であったが、一日二回照射群では一日一回照射群に比し細胞数が有意に多かった。【考察とまとめ】腺窩において分割照射中に再増殖が起きており、Tpotの短縮が関与している。しかし、腺窩内の細胞数は、一日二回と一回照射群では明らかに差があり、Tpotの短縮だけでは説明がつかない。このことから、Tpotの短縮以外に増殖に関わる細胞喪失因子の減少について今後検討を進めるべきであると考える。
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