生後2〜3ヶ月から記憶障害を示すことが報告されている老化促進モデルマウス(SAMP8)脳内のmtDNAを抽出しPolymerase Chain Reaction(PCR)により欠失の存在を検出した。コントロール群として同起源でありながら正常老化を示すSAMR1、および外部コントロールとしてddYを用いた。その結果、生後1ヶ月においてすでに正常群に比較して欠失の増加が観察され、2ヶ月齢で有意な差が見出された。このようなmtDNAの欠失は、基本的にはミトコンドリアにおける電子伝達鎖の障害により電子の異常蓄積が生じそこから漏出した電子により酸素などの分子が活性化されラジカルとしてDNAを攻撃した結果と考えられる。そこで、SAMP8脳のミトコンドリア電子伝達鎖の酵素活性を測定したところ、全般的な活性の低下が観察されたが、特に電子伝達鎖の下流に存在する複合体IIIの活性低下が著しかった。すなわち、電子伝達鎖の下流で電子の滞留が生じ上流側で電子過剰状態が生じていることが示唆された。 これらとは別に、電子伝達鎖における異常電子蓄積に対して選択的に反応し組織内に滞留する診断薬剤Cu-62-diacetyl-bis(N4-methylthiosemicarbazone)(Cu-ATSM)を開発した。Cu-ATSMは急性心筋梗塞や低酸素組織などに高く集積することが示され、その有用性が期待されるとともに、上記SAMP8脳のような代謝機能障害としてのミトコンドリア障害に対する診断薬剤としても期待が持たれる。
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