腫瘍組織中の低酸素細胞は放射線感受性が著しく低く、放射線治療効果を妨げる要因の一つとなっている。低酸素細胞の放射線感受性を高める薬剤として2ニトロイミダゾール系化合物が知られており、これまでにミソニダゾール等が臨床に用いられてきた。しかし、いずれも神経毒性のために十分な臨床効果が得られなかった。しかし最近、2ニトロイミダゾール系化合物の側鎖に工夫を加え、脂溶性を抑えて神経毒性を大幅に低減した低酸素細胞増感剤が開発され、これらのうちのKIN806とKIN896とについて生物学的活性を検討し、臨床応用への可能性について検討した。 KIN806は従来の放射線増感剤とほぼ同等の放射線増感効果を有するのみならず、肺転移をも抑制することを実験的に明らかにした。これはKIN806自体が免疫賦活作用をも有することを強く示唆した。さらにこの転移抑制作用がKIN806に特異的な現象であることを類似誘導体のKIN804、KIN844等と比較して明らかにし、併せて腫瘍局所及び転移巣に惹起される免疫反応についても比較検討し、KIN806がこれまでに類のない免疫賦活作用を有する放射線増感剤であることを明らかにした。さらにKIN806と同等の作用を有すると予想され、KIN806よりも水溶性を高めたKIN896についても同様の検討を行い、KIN896がKIN806と同等以上の増感作用と肺転移抑制作用を有することを明らかにした。 KIN806あるいはKIN896が従来の放射線増感剤と同等の増感効果を保持しつつ、免疫賦活作用の利点を併せ持つ優れた薬剤であることは、今後これらの薬剤の臨床応用が十分に可能であることを意味しており、癌の治療効果のさらなる改善を大いに期待できる。
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