研究概要 |
遺伝子発現法の開発 腎放射線晩発障害の早期指標としてのDNA合成促進をさらにそれに先立つc-myc、c-H-ras、c-K-rasなどの増殖関連遺伝子の発現として捉えうるか否かを検討した。マウスの左腎のみに9、12、および15Gyの一回照射をそれぞれ10匹ずつ行い、照射24時間後に摘出した腎からAGPC法によりRNAを抽出して、非照射の右腎を対照としてc-mycのmRNAレベルでの発現をRT-PCR法により解析した。 非照射マウスでは10個体中1個体に、9Gy照射マウスでは10個体中1個体に、12Gy照射マウスでは10個体中6個体に、また15Gy照射マウスでは10個体中9個体に左腎(照射腎)におけるc-mycのmRNAの発現増加がみられた。この線量と発現率との関係は以前に観察した12ケ月後の腎重量の減少とよい相関がみられた。 これまでに腎晩発障害の早期指標として見い出したトリチウムチミジン/オートラジオグラフィ法による尿細管細胞のDNA合成促進はこのままの手技では生体には応用できず、また臨床に用いるには発現するのが照射後1ケ月と遅すぎた。それに対して,遺伝子発現法は生検標本で検索可能で、また照射24時間後の超早期に発現しており、腎晩発障害の早期指標として臨床応用が有望である。以前に発表した腎重量の観察との比較でも、c-mycのmRNA発現頻度の増加は腎重量の減少に一致してみられており、腎晩発障害の超早期予知法としての期待が高まる。今後はc-mycの発現した個体がのちに腎晩発障害をきたすことの確認が必要であり、腎の一部を生検してc-mycの発現を調べた後、12ケ月程度の長期に観察する実験を計画している。またc-myc以外の増殖関連遺伝子についてもそれらの発現を検討し、より感度と特異性の高い早期指標の開発を目指している。
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