研究概要 |
知覚,思考(言語),記憶など種々の認知機能領域にまたがっていると考えられている分裂病の病態を統合的に把握するのを目的として、言語処理に関わるパターン認知過程から意味処理および記憶処理の過程を同時に評価する方法を確立するために,健常者10名を対象に視覚刺激装置によって生成される単語刺激で,独自に考案した視覚課題を遂行させたさいの事象関連電位を記録した.視覚課題には,(1)パターン認知と意味処理を評価する意味範疇課題と,(2)パターン認知と記憶処理(プライミング)を評価する反復課題とを用いて,非弁別課題での事象関連電位を対照として認知処理によって生じた電位のみを抽出した.意味範疇課題では,単語の意味処理を行うとパターン認知に関連する早期NA電位に重複して意味処理を反映するN400電位が出現し,意味処理を行わないとNAしか生じないことを観察した.一方,反復課題では,反復時間が短い場合にNAに後続するN400が減弱し意味プライミングが生じるが,反復時間が遅延するとこれが見られないこと観察した.これらより,本方法によって,パターン認知,意味処理,意味プライミングを同時に評価することを可能にした. 次に,これらの電位を指標に,上記の健常者を対照群として一卵性双生児の分裂病不一致例を検討したところ,両者においてN400潜時の遅延と反復効果の減弱が見られ,発病例でのみNA潜時の遅延とN400振幅の減弱を認めた.これより,上記の二種類の課題を用いてNAおよびN400を検討することで,分裂病の素因によって形成される病態と,発病を規定する病態の両方を評価できる可能性を示した.現在,分裂病者での検査データを蓄積中で,次年度はそれらと各種の臨床変数との関係を分析する予定である.
|