研究概要 |
知覚,思考(言語),記憶など種々の認知機能領域にまたがって起こる分裂病の病態を統合的に把握するのを目的として,言語処理に関わるパターン認知から意味処理および記憶処理の過程を同時に評価する視覚課題を独自に考察し開発した.視覚課題は,パターン認知と意味処理を評価する意味範疇課題と,パターン認知と記憶処理(プライミング)を評価する反復課題とで構成されている. 初年度は,健常者20名を対象に視覚課題遂行時の事象関連電位を記録した.これによって意味範疇課題では,単語の意味処理を行うとパターン認知に関連する早期NA電位に重複して意味処理を反映するN400電位が出現し,意味処理を行わないとLAしか生じないことを観察した.一方,反復課題では,反復時間が短い場合にNAに後続するN400が減弱し反復プライミングが生じるが,反復時間が遅延するとこれが見られないこと観察した.これらより,本方法によって,パターン認知,意味処理,記憶処理(プライミング)を同時に評価することを可能にした. 最終年度は,寛解期の分裂病患者20名を対象にこれらの視覚課題を用いて事象関連電位を記録し健常者のデータと比較した.これによって,分裂病では(1)パターン認知障害(NA頂点潜時の遅延),(2)意味処理の遅延(N400の延長),(3)意味記憶の顕著な処理障害(N400反復プライミングの欠如)の存在を明らかにした.特に,(1)と(3)は世界に先駆けて明らかにした所見である.これらは寛解期に認められることから,分裂病の脆弱性(基本障害)の臨床指標となる可能性が考えられ,臨床的には脆弱性を基にして起こる精神病症状の発展過程を他の臨床指標も用いて検討していくこと,病態論的にはプライミング効果の欠如が語彙処理段階のどのレベルで起こっているのかを解明することが今後の課題となる。
|